物流クライシスとは?問題の原因と運送業界の課題について解説!!
2023年12月13日
EC市場の拡大が続く中、物流業界では効率化や人材確保が思うように進まず、需要(荷物量)への対応が追いついていないという問題が生じています。現在の物流業界は、そのような状況を称した「物流クライシス」の懸念が生じています。
この記事では、物流クライシスとは何か、そして原因と運送業界の課題について解説します。
この記事の目次
物流クライシスとは?
物流クライシスとは、物流業界に生じている深刻な問題のことを指します。具体的には以下の問題があげられます。
- 輸送・配送を担うドライバーの人員不足や高齢化
- トラックなど輸送手段の不足
- 輸送ルートの混雑
- 非効率な業務による配送の遅れ
- 燃料費・人件費の高騰による輸送コストの上昇
これらは、いくつかの社会的問題や法改正に起因するものであり、2024年4月から適用される「時間外労働の上限規制」はさらに問題を深刻にすると考えられ、物流業界を文字通り、危機(クライシス)にさらすものとなります。
2024年問題との関係性
「2024年問題」とは、働き方改革法案に基づき2024年4月から運転手を対象とした時間外労働の上限規制(年間で960時間まで)が適用されることにより生じる問題です。経済産業省の検討会によると、営業トラックの輸送能力は2024年に14.2%、2030年には34.1%不足すると予想されています。このことから、近年生じている物流を取り巻く諸問題が、2024年の規制によって一層危機的状況(クライシス)に陥ると考えられています。
参考:経済産業省:「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」
物流クライシスによって起こる影響
物流クライシスは、荷主・物流会社・消費者それぞれに影響を及ぼします。具体的な影響は以下のとおりです。
配送コストの増加
- 配送コストの増加
- 利便性の低下
- 配送サービスの質の低下
物流会社への影響
- ドライバーの収入減少、人材流出
- 稼働時間の減少
- 売上減少
- 働き方改革関連法に関する国からの指導
消費者への影響
- 生活に必要な物資の滞り
これらの影響を押さえるために、消費者を含め、業界全体での取り組みを行う必要があります
物流クライシスが起こる原因
物流クライシスは需要(荷物量)と供給(配送能力)のバランスの崩壊により生じる問題であり、以下で詳しく解説します。
EC市場拡大による、小ロット配送の増加配送コストの増加
ネットショップの利用増加により、小ロットの配送(小口配送)が増加しています。フリマアプリやネット販売により配送元及び配送先がそれぞれ増加し、多岐にわたるため、集約化し配送することが困難になっています。そのため、小型トラックの台数や配送担当者の人数を多く用意する必要があります。さらに、個別の集配業務や再配達への対応など、効率化しにくい業務が物流コストを上昇させる要因となっております。
配送の担い手不足
物流会社は、ドライバーやスタッフの人手不足や高齢化という課題を抱えています。運送業は労働環境が過酷なため、配送の担い手が確保しにくい状況があり、特に若年層のドライバーが少ないことから、将来的な人材不足が懸念されています。また、消費者からは早い配送と高水準なサービスが求められているため、結果として長時間労働の常態化につながっている状況です。若い担い手の確保と育成、効率を上げるためのシステム作りが急務と言えます。
物流クライシスの対策
物流クライシスは文字どおり危機的な状況ですが、改善の余地はあり、さまざまな対策が考えられます。人手不足は社会的な問題にも原因があるため、根本からの解消は難しいものもありますが、システムや体制の改善を行いつつ、人材育成を地道に行うことが必要となります。
配送料の値上げ
ECサービスで「配送料無料」が盛んに取り入れられた結果、「送料無料は当然のもの」という認識が広まりました。しかし、配送会社側の人員不足や長時間労働という問題を解決するためには人材確保が必要であり、そのための配送料の値上げは欠かせません。
物流の標準化
梱包形態やサイズ、伝票の書式等は取引ごとに様々であり、今日までは人の手で対応してきました。こういったものを含めた物流の標準化を進めると人力での対応を減らすことができます。また、従来は荷物を扱わなかった旅客輸送の車両の一部を荷物の積載に充てることで、小口配達の輸送手段の選択肢を増やすという試みも行われています。既存の輸送システムの見直しや、最適化による物流キャパシティの増加が検討されています。
DXによるバックオフィスの生産性向上
DX(Digital Transformation)によって生産性を高める方法も有効です。標準化を進め、倉庫の自動化やロボットの導入をすることにより配送業務の効率化が可能となります。トラックの配車管理・発注伝票管理・ドライバーの作業管理などをDX化すると、物流全体の生産性向上が図れるでしょう。
物流人材の育成
女性や外国人の雇用を積極的に行い、新たな労働力の確保につなげていく必要があります。そのためには、これまで属人的に行われてきた物流業務を標準化し、誰でも容易に物流工程に参加できるような体制の整備が必要です。加えて、流通経路やバックオフィスのDX化に対応する人材の確保と育成が必要となります。
輸送方法の見直し
配送能力の不足に対しては、単にトラックを増加させることのみが解決に繋がるものではありません。現在調達できるトラックの実働率を、IoTの活用や利用方法の見直しによって改善することで配送能力を向上させることにつながります。一例として、自動運転車両やドローンを利用した輸送手段の研究等が進められ、実用化が期待されています。
物流クライシスを切り抜けるための輸送方法
物流クライシスを切り抜けるには、輸送方法の抜本的な見直しが必要です。従来の輸送方法に固執せず、今の時代にあった柔軟な見方で輸送業務を捉え直す局面ともいえます。ここでは、現在実施されている試みを紹介します。
フィジカルインターネット
フィジカルインターネットとは、AIやIoTを活用して配送業者が連携して効率的な配送を行う概念です。各業者の所有・利用する倉庫やトラックなどを共有して効率的に配送を行うことを目指しています。
- 複数の配送業者で倉庫・トラック・ドライバーの共有し、状況を管理する
- 上記の物流資産やIoTを活用して効率的な配送を行う
フィジカルインターネットは、物流を可視化・ネットワーク化する方法として注目されています。
共同配送の実施
物流のリソースであるトラックや鉄道貨物を、荷主や物流会社で共有・連携する「共同輸送」が始まっています。あるビールメーカーは、競合会社同士で連携して拠点間の輸送を鉄道に切り替え、さらにトラック輸送でも連携して効率的に輸送する体制を作りました。
物流会社間でトラックやドライバーの情報を共有・管理し、配送先から帰る際に別の会社の荷物を積んで稼働率を上げる方法も検討されています。ただし、これには柔軟で正確な情報管理が必要なため、DX化やIoTの活用が前提となります
後続車無人隊列走行の実現
後続車無人隊列走行とは、トラックを複数台連ねて走行する際に、先頭車両のみ有人で他の車両は自動で追従させるという輸送方法です。経済産業省と国土交通省が取り組みを行っており、現在は高速道路での実験を行っている段階です。自動運転の技術開発と輸送システムの開発を兼ねた意義のある取り組みといえます。
ドローン配送の導入
- 人手不足を補う
- 交通渋滞を避ける
- 山間部等の地理的問題を低減する
ただし、ドローンを操縦する人材が新たに必要である点は課題のひとつです。従来の配達員の業務をドローン操縦士が代行する形になります。また、ドローンに対する法律上の規制緩和や輸送量の確保など検討する課題は多く、用途を明確にした施策が必要です。
まとめ
物流クライシスは目の前にある大きな問題です。そのため、輸送方法など業務の見直しと効率化、技術開発、人材の待遇改善が急務です。DXの推進によって早期に効率化を行い、持続性のある人材育成を進める必要があります。物流クライシスを回避するためにできることは多く残されています。
ロジクエスト編集部
株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
物流に関わる基礎知識やトレンドについて、分かりやすく解説しています。