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コールドチェーン(低温物流)とは?意味や必要性、課題について分かりやすく解説!

2023年05月10日

物流基礎知識

コールドチェーンという言葉をご存知でしょうか。
普段私たちがスーパーやコンビニで鮮度の高い食品を購入できるのは、コールドチェーンという物流の仕組みが影響しています。
この記事では、コールドチェーンの必要性や課題を説明します。

コールドチェーンとは

コールドチェーンとは温度管理が必要な商品を生産から消費地まで、一貫して低温状態に保つ物流のことです。日本語では低温物流体系と訳されます。

その主な目的は、低温状態を保つことによる品質の維持です。これにより、常温物流では実現できない広域範囲への移送保存期間の長期化などが可能になります。コールドチェーンでは、一貫した温度管理が前提となるため、当然ながらサプライチェーン上でたった一つでも十分な温度管理がなされなかった場合、確実に商品の品質を維持することはできません。そのため、サプライチェーンの各工程ごとに徹底した管理を行うことが重要なポイントとなっています。

このように常温物流とは異なる目的を持つコールドチェーンですが、途切れることなく温度管理するべく、倉庫設備や車両設備も常温物流とは異なる仕様になっています。

例えば、冷蔵倉庫には低温環境を保つための空調や入出庫時に外気との温度差による影響を軽減するためのドッグシェルターなどが設備されています。また、冷蔵冷凍車の荷台には断熱仕様のパネル、冷却ユニットなどが設備され、低温環境を実現しています。

近年、コールドチェーンは冷凍食品や中食の普及、医薬品分野の技術成長などが市場を牽引したことで、国内外でニーズが高まってきています。特にASEAN地域の新興国では、経済成長や個人所得の向上が著しく伸長したことで、ライフスタイルが変化し、冷凍冷蔵食品の消費額が拡大しています。こうした状況下、コールドチェーンによる輸出体制構築の必要性は増していく一方です。

コールドチェーンについて理解を深めるためには、世界各国のコールドチェーン産業の動向もチェックしておくとよいでしょう。

コールドチェーンの流れ

コールドチェーンの必要性

低温状態を維持したまま消費地まで届けるコールドチェーンの仕組みですが、消費者の手に届くまで一定の温度を保たなければどうなるでしょうか。ここからは、食品と医薬品を例にコールドチェーンの必要性を説明します。

食品

野菜や肉、魚などの生鮮食品の流通は、「鮮度維持期間を長く保つため」「品質・安全性を向上するため」にコールドチェーンが下支えしています。仮にコールドチェーンを利用しなければ、スーパーや飲食店に届く頃には味や品質が落ちてしまい、商品として成り立たなくなる可能性があります。また、常温物流では鮮度維持期間に限りがあるため、一定の狭い範囲にしか食品を届けることが出来ません。さらに保存期間も短くなるので、流通段階での廃棄ロスにも発展してしまいます。このように、コールドチェーンは生鮮食品の安定供給に欠かせない仕組みであると言えます。

加えて、2021年6月からHACCPの導入・運用が完全義務化されたことはコールドチェーンの必要性をさらに高めるものとなっています。

HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Point(危害要因分析に基づく重要管理点)の略称であり、食品の安全性を守るための衛生管理手法です。具体的には、食中毒菌や異物混入などの原因となる食品事故が発生するリスクの高い工程をあらかじめ分析し、その結果に基づいて、どんな対策を講じれば食品の安全を確保できるかという重要管理点を定め、これを継続的に監視・記録するといった考え方です。

HACCPに沿った衛生管理が標準となった今、食品等事業者は製造加工段階での徹底した衛生管理とともに、低温保管・輸送においても監視対応が求められています。

医薬品

世界的に需要が高まっているバイオ医薬品や新型コロナウイルスのワクチンには、保存期間が短く、厳しい温度要件を持つ有効成分が含まれているため、サプライチェーン全体を通じた温度管理の必要があります。

例えば、ワクチンの温度管理には厳格なルールがあり、輸入から接種会場・施設への移送に至るまで徹底した温度管理が不可欠となっています。仮に、冷凍庫内の温度を計測・記録する温度ロガーの操作ミスや冷蔵庫の扉の閉め忘れなどが起きれば、健康被害を招く可能性があるとして廃棄しなくてはなりません。ワクチンを国民に安定供給するためにも、コールドチェーンの仕組みを整える必要があります。

基本型接種施設から連携・サテライト型接種施設への移送について詳しくはこちら >ワクチンの輸送について

また、血液製剤は2〜8度の低温を保つことが品質を維持する条件とされていますが、1度でも適温から外れると原則として廃棄処分にしなければなりません。このたった一つのロスが、輸血を必要とする手術に大きな影響を及ぼす恐れがあります。

このように、仮にコールドチェーンが機能せず適切な温度を保てなければ、人の命を扱う医療機関に大きな影響を及ぼしてしまうでしょう。医薬品を扱うコールドチェーンは、医療現場を支える重要な要素と言えるのです。

コールドチェーンの課題

我々の生活に欠かせないコールドチェーンですが、課題も有しています。具体的に把握しておきましょう。

コスト負担の大きさ

常温物流に比べて、コールドチェーンを構成する各事業者には多くのコスト負担が伴います。設備導入時にかかるイニシャルコストはもちろんのこと、維持管理するためのランニングコストも必要です。

保管段階では、常温倉庫と比して建設費が倍以上かかる冷蔵倉庫が必要になりますし、温度管理ミスが起きないよう専門的な知識を持つ人材の確保にかかるコストも必要になります。
また、商品によって適した温度が異なり、それぞれに対応した低温管理が求められるため、整備しなくてはならない機能の幅が広いこともコスト負担増に影響しています。

冷蔵倉庫不足

コールドチェーンを構成する要素として欠かせない冷蔵倉庫ですが、現在、都市部・地方部を問わず、保管スペースのひっ迫が深刻化しています。保管スペースのひっ迫は以前から長期トレンドとして課題視されていましたが、保管能力を拡大することで短期的に対処してきました。しかし、新型コロナウイルスの影響や社会環境の変化を背景に、家庭用冷凍食品やチルド食品の需要が増加したことでこうした状況に拍車がかかりました。加えて、国内の冷蔵倉庫は築年数が経過したものが多くあり、老朽化した冷蔵倉庫は建て替えの必要性に迫られています。

コールドチェーンの体制構築に欠かせない冷蔵倉庫についても、需要増や老朽化などを要因とした冷蔵倉庫不足が悪化しており、すぐにでも解決しなければならない課題となっています。

まとめ

コールドチェーンのおかげで、安全性の高い食品を口にすることが出来たり、ワクチン接種による恩恵を受けることが出来ます。現代の我々にとって必要不可欠な仕組みと言えるでしょう。

ただ、こうしたコールドチェーンは、日本では当たり前の機能として生活に根付いていますが、海外に目を向けるとまだまだ発展段階にあります。もっとコールドチェーンを学びたいという方は、海外を含めたコールドチェーンの産業動向、体制構築についても注目してみてはいかがでしょうか。

記事の作成者

ロジクエスト編集部

株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
物流に関わる基礎知識やトレンドについて、分かりやすく解説しています。

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