ラストワンマイル問題とは?その背景と解決に向けた取り組みをご紹介!
2023年05月10日
在宅需要の増加に伴いネットショッピングが普及したことは、withコロナの代表的な消費行動の変化として広く認識されています。当記事を読んでいる皆さまも利用する機会が増えたのではないでしょうか。また、当然ながらオンライン販路の開拓を推し進めた事業者も多く、消費者にとってはこれまで以上に買い物が便利な世の中となりました。
物流業界では、こうしたEC利用者数の急増を背景に宅配取扱量が増大しており、ドライバーが不足するラストワンマイルの配送現場ではひっ迫した状況が続いています。労働生産性の向上がラストワンマイル領域の宅配事業者において、速やかに実現したい事柄の一つとなっています。
この記事では、ラストワンマイル問題の意味や背景、また解決に向けた取り組みについてご紹介します。
この記事の目次
ラストワンマイルとは
ラストワンマイルとは、消費者が商品を手にするまでの最後の配送区間
のことです。
具体的には、物流の下流工程に該当する宅配領域(物流センターから個人宅への区間)を指します。
元々は通信接続を提供する最後の区間という意味で使用されていた言葉ですが、現在では物流業界で広く用いられています。
物流業界にはサプライチェーン全体に様々な問題が存在しますが、近年需要が拡大しているラストワンマイルにおいても労働力不足を中心とした問題が浮き彫りになりました。
ラストワンマイルを取り巻く現状
配送需要と供給能力の関係
周知の通り、ECの利用者増が影響し、個人宅へお届けする荷物は年々増え続けています。
一方で、物流業界全体では人手不足が顕在化する中、ドライバーの高齢化や労働環境の悪化などにより、物流に従事する人材は年々減少しています。特にラストワンマイル領域で宅配が行われる物流においては、こうした問題が顕著です。
その上、消費者に直接商品を届ける役割を担うラストワンマイル配送は、企業向けの配送に比べて高い水準のサービスが求められています。
その背景には、消費者のライフスタイルが多様化したことで、配送サービスに期待する価値が上昇していることがあります。細かな時間指定や納品方法への対応など、消費者ニーズに応じる形で変化してきた宅配サービスは、これまでにないほど充実したものとなっています。
このように、EC利用者の拡大に比例して荷物が増加する反面、配送の担い手の減少が続き、その一方で要求される配送のサービスレベルは高まっているという需給のバランスが崩れている状況が続いてしまうと、消費者の要望に応えられなくなる時が来るかもしれません。中にはドライバーが確保できない状態にある配送事業者も現れており、ラストワンマイルに関わる事業者全体で改善に向けて取り組むべき課題となっています。
物流需要と供給能力の乖離について、詳細は「物流DXとは?必要性や推進上の課題について解説!」をご覧ください。
物流DXとは?必要性や推進上の課題について解説!
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ラストワンマイル問題
上述したように、ラストワンマイル領域では労働力不足が顕著に表れています。そのような宅配領域で生じる様々な問題を総称して、ラストワンマイル問題
と言います。
ここからは代表的な労働力不足に関連する宅配特有の問題についてご紹介します。
EC事業者はラストワンマイル需要の高まりとともに、他社との差別化を目的として、消費者の要望に沿った配送サービスの充実を図っています。例えば、「○○円以上で送料無料」や「○○日以内にお届け」などのサービスは、今や当たり前となっています。しかし、それらも労働力不足を加速させる要因となっているのです。
再配達による労働生産性の低下
BtoB配送と比較し、BtoC配送は再配達が多い傾向にあります。国土交通省の調査によれば、”令和3年10月の宅配便再配達率は11.9%”(引用元:国土交通省「宅配便の再配達率が微増」) であり、数年前より改善されているものの、10個のうち1個の荷物は再配達が行われている実態です。当然ながら、宅配件数が増えるほど不在による再配達件数も増えるため、ドライバーの走行距離や労働時間の増加に影響し、非効率な配送の要因となっています。
通常、宅配ドライバーは距離や場所、時間指定を考慮したルートを組み、効率の良い配送を図ります。しかし、不在があった場合は一度持ち帰り、一通り配送が完了した上で再配達を行う必要が生じ、仮に再配達を行っても再度不在だった場合、またしても持ち帰ることになります。
限りのある配送キャパシティに対して「何度でも」「無料で」依頼できる再配達は、我々の生活に欠かせない宅配業界の労働生産性を低下させることにつながり、社会的損失だと言えます。
また、こうした再配達を引き起こす要因の一つに、消費者と配送事業者、また消費者と荷主(小売事業者)のコミュニケーション不足が挙げられます。荷物を早期に「受け取りたい / 届けたい」ことは互いに目的が一致していますが、予期せぬ外出や配送時間の失念はどうしても発生してしまいます。そのため、予定変更の連絡や事前の配送状況の共有など、双方が協力してコミュニケーションを行うことで、再配達件数を最小限に抑えることができます。
積載効率の低さ
個人向け配送は、企業向けの配送と比べて届け先が分散している上に、一件当たりの貨物量も少なく、積載効率の水準が低い特徴があります。特に地方の人口が少ない地域は積載効率が悪くなり、長い距離を走行しても都市部ほどの宅配件数には及びません。また、配送の多頻度・小口化の波は止まらず、トラック一台当たりの積載効率は低下の一途を辿っています。
こうした積載効率の低さは、配送回数や走行距離の増加に影響し、ドライバーの生産性を低下させます。再配達と同様、限りある配送キャパシティの中、効率の良い配送を実現することが配送事業者のみならず、物流業界全体で解決すべき問題となっています。
労働力不足の改善に向けた取り組み
こうした実態を受け、ラストワンマイル問題の解決に向けた取り組みが進んでいます。ここからは、代表的な取り組みを2つご紹介します。
受け取り方法の多様化
政府をはじめ、ラストワンマイルに関わる事業者が既存の枠組みを超えた連携を前提として、自宅以外での受け取り方法の多様化を推進しています。
消費者が自宅や職場に近いコンビニエンスストア、小売店などの実店舗を指定し、好きな時間に受け取ることのできる「店頭受け取り」は、今や全国的に普及している受け取り方法です。数年前からEC事業者や小売事業者が導入し始め、じわじわと広がっていきました。
他にも、人を介さずに受け取ることのできる手段として駅や街中で見かけることの多い「宅配ボックス受け取り」は、主に都心部で利用される機会が増えています。
さらに、近年では「置き配」を実施する上での検討が活発になっています。上記の店舗や宅配ボックスでの受け取りに比べセキュリティリスクのある「置き配」は、受け渡し実施上に難しさがありました。しかし、再配達等にストレスを感じる消費者からは、普及してほしいという声も多く上がっていました。そのため、近年宅配事業者がオートロック式マンションや車庫などの指定可能場所を制限することで、消費者の都合に合わせた受け取り方法を提供する取り組みが進んでいます。
このような受け取り方法の多様化は消費者の利便性向上に加え、不要な再配達の発生防止や積載効率の底上げにつながり、結果としてドライバーの生産性向上に大きく貢献します。
物流管理システムの活用
現代ではあらゆる業界でシステムによる業務支援が欠かせないものとなっています。当然ながら、宅配業界においても同じです。配送の供給能力が深刻化する中、効率的な配送を行うには物流管理システムの活用は必要不可欠になります。
物流管理システムは、倉庫管理システムと輸配送管理システムの2種類に大別され、それぞれが物流効率の面で重要な役割を持ち、生産性の向上を支援します。
倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)は、物流倉庫での入荷から出庫までの領域において、庫内業務全般を管理するシステムのことです。代表的な機能は入庫や在庫、出庫の管理であり、庫内業務の流れを一元管理することで生産性向上に役立ちます。
また、輸配送管理システム(TMS:Transport Management System)は、物流センターから届け先までの領域において、輸配送全般を管理するシステムのことです。代表的な機能は、配送計画、運行管理であり、現場で経験や勘に頼っていた配送業務を標準化することで生産性向上に役立ちます。
中でも、輸配送管理システム(TMS)のうち、AI技術を用いた配送計画機能はラストワンマイル問題の解決に直結するとして注目されています。
そもそも配送計画とは、日々の交通状況や納品期限等を考慮して配送リソースを最適化する計画のことです。最も無駄のない配送計画を立てることで、トラック積載効率の改善やコスト削減が可能となります。しかしながら、トラックや届け先の母数が多ければ多いほど様々な条件が絡み合うため、人の手で適切な配送計画を導き出すことは現実的ではありません。そこで、より早く正確に算出することのできる自動算出システムの活用が必要となっているのです。
個社のみならず、事業者間の垣根を超えた共同配送の現場においても、配送リソースの割り振りや車両手配が効率化されれば、結果として労働力不足の改善が期待できるでしょう。
ロジクエスト編集部
株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
物流に関わる基礎知識やトレンドについて、分かりやすく解説しています。