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取適法とは?中小受託取引適正化法の概要と配送業務への影響を分かりやすく解説

2025年12月5日

物流基礎知識

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取適法(とりてきほう)とは、「中小受託取引適正化法」の略称ことで、2026年1月1日に施行されます。この法律は、従来の「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」を改正したものです。

これまでの下請法は「資本金基準」によって対象事業者を限定していましたが、取適法では「従業員数基準」も新たに導入。さらに、これまでの下請法が適用されなかった荷主企業と元請間の運送取引を「特定運送委託」として対象に加わります。

これにより配送業務を外部に委託している荷主企業にとっては、契約条件や取引慣行の見直しが求められる大きな転換点となります。

本記事では、取適法の基本的な概要から、下請法からの変更点、そして配送業務を委託する企業に求められる対応までを、わかりやすく整理して解説します。

取適法(中小受託取引適正化法)とは?2026年1月施行の下請法改正

取適法とは、2026年1月1日に施行される「中小受託取引適正化法」の略称です。
これは、従来の「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」を改正してつくられた法律で、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目的としています。

下請法では、発注者(親事業者)と受注者(下請事業者)の資本金規模によって適用対象が限定されています。

取適法では、これまで下請法の適用外だった「資本金が小さい発注者」でも従業員基準を満たす場合には、適用されることになります。

これにより、以前は法の適用外だった事業者も、支払遅延や不当な減額・買いたたきなどから守られるようになり、発注者側(荷主などの委託事業者も含みます)は、この新しい法律の趣旨を理解し、自社の取引慣行を見直す必要があります。

なぜ今?下請法が「取適法」に改正される背景と目的

近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇のなかで「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保することが必要となりました。そのためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていく必要となり、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押しつける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し価格転嫁をすすめていく法改正がなされました。

取適法では次の4点を大きな目的としています。

・支払遅延の防止
・買いたたきや不当な減額の禁止
・契約内容の明確化
・フリーランスを含む中小受託事業者の保護

このように、取適法は企業間のパワーバランスを是正し、公平な市場環境の実現を目指しています。

【比較】取適法で何が変わる?下請法からの5つの主要な改正点

2026年1月に施行される取適法では、下請法から多くの変更点があります。
特に重要な5つの改正点をまとめると以下の通りです。

① 法律名称と用語の変更

従来の「下請代金支払遅延等防止法」は「中小受託取引適正化法」に改称され、用語も現代的なものに置き換えられました。

下請法改正前	取適法へ改正後
下請代金支払遅延等防止法	製造委託等に係る中小事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
下請代金	製造委託等代金
親事業者	委託事業者
下請事業者	中小受託事業者


これにより、上下関係を示す語が廃止され、より対等な取引関係を表す法律へと変わりました。

② 適用対象となる取引範囲の拡大

これまでの「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4類型に加えて、「特定運送委託」が新たに対象に加わりました。 特に物流業務を委託している企業は、特定運送委託が自社取引に該当するか確認が必要です。

③ 適用基準への「従業員基準」の追加


下請法では資本金のみが基準でしたが、取適法では従業員数も新たに基準として導入されます。これにより、資本金が少なくても大規模な従業員を抱える企業が発注者として規制対象になるケースがあります。資本金基準または従業員基準のいずれかに該当すれば、適用対象となります。

取適法の適用対象
取引類型	委託事業者	中小受託事業者
製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託※1	資本金3億円超	資本金3億円以下(個人を含む)
	資本金1千万円超3億円以下	資本金1千万円以下(個人を含む)
	常時使用する従業員300人超	常時使用する従業員300人以下(個人を含む)
情報成果物作成委託・役務提供委託※2	資本金5,000万円超	資本金5,000万円以下または従業員数100人以下
	資本金1千万円超5千万円以下	資本金1千万円以下(個人を含む)
	常時使用する従業員100人超	常時使用する従業員100人以下(個人を含む)
※1情報成果物作成委託・役務提供委託については、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る
※2情報成果物作成委託・役務提供委託については、プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く

④協議なき一方的な価格決定の禁止


発注者が十分な協議を行わず、一方的に価格を設定する行為を禁止。
資材費や燃料費の上昇など、受託側のコストを考慮しない価格設定は違反となります。

⑤手形払いの原則禁止

手形払が禁止されるとともに、その他の支払手段(電子記録債権等)についても、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されます。 手形決済等は資金繰りを圧迫するため、現金・振込による支払いを原則とし、受託事業者のキャッシュフローを安定させる狙いがあります。

出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック」
出典:公正取引委員会「取適法リーフレット」

【荷主企業は必見】取適法が配送業務に与える具体的な影響

取適法では、これまでの下請法では対象外だった一部の取引も新たに規制の範囲に加わります。その中でも特に物流・配送業務に関わる企業に影響が大きいのが、前項でも挙げている「特定運送委託」という新しい取引区分です。

特定運送委託とは、荷主企業が自社の事業のために行う貨物運送を外部の運送事業者に委託する取引を指します。配送業務を外部委託している企業は、対象になる可能性があるため注意が必要です。

規制の対象となる範囲は、幹線輸送からラストワンマイル配送まで幅広く、工場から店舗への製品輸送や、EC商品の個別配送なども含まれます。

委託事業者(荷主)に課される義務と禁止行為

荷主企業(委託事業者)には、取適法によって以下のような義務と禁止行為が定められています。

【4つの義務】

			
	義務内容	概要	
	発注内容の明示義務	"発注時には、金額・納期・支払期日などを書面
(または電子メールなどの電磁的方法)で明示"	
	書類作成・保存義務	給付内容、委託等代金の額など、取引に関する記録を書類または電磁的記録として作成し2年間保管	
	支払期日の設定義務	"検査をするかどうかを問わず、納品後60日以内の
支払期日設定が必須"	
	遅延利息の支払い義務	支払期日を超えた場合、受領日から60日を経過した日から実際に支払が行なわれる日までの日数に応じ、年率14.6%の遅延利息が発生

【11の禁止行為】

禁止行為	内容概要
受領拒否	委託事業者が、受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、成果物や役務の提供を受領しない行為
支払遅延	支払期日までに代金を支払わない、手形・遅延支払を行うなど、受託事業者に対し支払を遅らせる行為
代金の減額	委託時に定めた代金を、正当な理由なく一方的に減額すること
返品	受託事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、発注後に成果物等を返品すること
買いたたき	市場価値や通常の対価より著しく低い金額での代金設定を行うこと
購入・利用強制	正当な理由なく、受託事業者に対して指定物品や役務の購入・利用を強制すること
報復措置	受託事業者が公正取引委員会等に違反を通報したりしたことを理由に、不利益な取扱をすること
有償支給原材料等の対価の早期決済	支給した原材料等の対価を、成果物等の支払期日より前に相殺・支払させる行為
不当な経済上の利益の提供要請	受託事業者に金銭・役務等の不当な提供を求めること
不当な給付内容の変更・やり直し	受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注内容の変更・契約取消・無償やり直しをさせること
協議に応じない一方的な代金決定	受託事業者から代金協議の要請があったにもかかわらず、説明を行わず一方的に価格を決めること

出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック」
出典:公正取引委員会「取適法リーフレット」

【罰則】取適法に違反した場合のリスクとは?

取適法に違反した場合、企業はさまざまなリスクに直面します。単に是正指導を受けるだけでなく、厳しいペナルティが科される可能性があるため、決して軽視できません。ここでは、違反が発覚した場合に具体的にどのようなリスクがあるのかを、「勧告・公表」と「罰金」という2つの側面から詳しく解説します。

・公正取引委員会による勧告・社名公表


取適法違反における最大のリスクの一つが、公正取引委員会による「勧告」および「社名公表」です。公正取引委員会は、違反行為が認められた場合、当該企業に対して是正勧告を行い、その勧告内容や企業名を公表する権限を持っています。
社名が公表されることは、企業の社会的信用やブランドイメージに深刻なダメージを与える可能性があります。取引先からの信頼を失い、新規の契約獲得が困難になるだけでなく、既存の取引関係にも悪影響を及ぼすかもしれません。

・50万円以下の罰金


取適法違反には、金銭的な罰則も規定されています。特に、発注書面の交付義務や書類の作成・保存義務など、基本的な義務を怠った場合には、最大で50万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、社名公表というレピュテーションリスクに加え、直接的な経済的負担を伴うペナルティです。
罰金は、企業の財務状況に影響を与えるだけでなく、法令遵守を怠った企業として認識される原因にもなります。したがって、企業は取適法の各義務を正確に理解し、確実に遵守することで、こうしたリスクを未然に防ぐことが求められます。

【施行前に】荷主企業が今から準備すべきこと3ステップ

今回の法改正は荷主企業にとって大きな影響をもたらすため、後回しにせず、今から計画的に準備を進めることが非常に重要です。このセクションでは、施行日までに荷主企業が具体的に何をすべきか、3つのステップを紹介します。

・自社の取引関係を総点検
取適法の適用対象となる委託取引を洗い出し、リスクを把握する。

・契約書・発注書フォーマットを見直し
必要記載事項を網羅し、支払条件を新法に準拠させる。

・社内規程と運用体制を整備
営業・購買・物流担当者に法改正を周知し、違反防止を徹底する。

取適法に関するよくある質問(Q&A)

Q. 取適法で発注者(委託事業者)に課される義務は?

A. 取適法では、以下の義務が発注者(委託事業者)に課されます。

・発注内容などの明示義務
・書類などの作成・保存義務
・支払期日を定める義務
・遅延利息の支払義務

詳しくは記事内「委託事業者(荷主)に課される義務と禁止行為」にて解説しています。

Q. 施行日前に締結した契約も対象になりますか?

A. はい。施行日以降に行われる個々の発注や支払いは新法の対象です。長期契約の場合も、該当部分は見直しが必要です。

Q. 運賃交渉の記録はどう残せばよいですか?

A. 協議内容を議事録やメールで残し、価格決定の根拠を明確化することが望ましいです。双方確認の署名を添えるとさらに確実です。

まとめ:取適法を正しく理解し、公正な取引の実現へ

本記事では、2026年1月1日に施行される「取適法(中小受託取引適正化法)」について、その概要から具体的な改正点、そして荷主企業が準備すべきことまで、多角的に解説しました。 荷主企業をはじめとするすべての発注者にとって、取適法の施行は、取引慣行の見直しと社内体制の整備が不可欠であることを意味します。罰則規定も強化されているため、施行日までに法改正の内容を正確に理解し、自社の取引関係を総点検し、契約書や発注書の見直し、そして社内での周知徹底を行うことが極めて重要です。この法改正を、取引先とのより公正で健全なパートナーシップを築くための好機と捉え、前向きに対応を進めていきましょう。

記事の作成者

ロジクエスト編集部

株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
物流に関わる基礎知識やトレンドについて、分かりやすく解説しています。

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