【軽貨物の安全対策新制度】安全管理者の選任や講習が義務化!その背景と概要、罰則について詳しく解説
2025年02月25日

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アフターコロナにおいても勢いの止まらないEC市場。自宅にいながら世界中の商品を購入できる利便性の高さは多くの利用者を魅了しています。
その裏側には商品を自宅へ届ける軽貨物配送の存在が不可欠です。軽車両によってあらゆる荷物を配送する軽貨物事業には、宅配需要の増加に併せて参入する法人・個人が増加しています。その軽貨物業界全体で取り組むべき事項として挙げられるのが、自動車事故防止に向けた安全対策です。
当記事では、増加する軽貨物事業者に対する安全対策のため2025年4月より軽貨物事業者に義務化される新制度の背景と概要に加え、安全管理者講習を中心とした安全対策の内容について詳しく解説します。
当該事業者の皆さまには必ず知っておいていただきたい情報となりますので、ぜひともご覧ください。
この記事の目次
貨物軽自動車運送事業における安全対策強化の背景
配送需要増による労働環境の変化
EC利用者数が拡大の一途を辿る中、消費者に荷物を届ける最後の区間であるラストワンマイル領域において、軽貨物自動車の配送需要が増加しています。 これにより、多くの事業者が新規参入していますが、依然として莫大な配送需要に追いつかない状況が続いています。ラストワンマイルにまつわる問題は様々ありますが、特に人材不足が顕著に現れており、軽貨物事業者は過酷な環境での稼働を余儀なくされています。
ラストワンマイル問題の詳細はこちらの記事からご確認ください。
関連記事「ラストワンマイル問題とは?その背景と解決に向けた取り組みをご紹介!」
貨物軽自動車の事故発生状況
このようなひっ迫した状況下で、もっぱら問題視されるのが自動車事故の増加
です。 国土交通省の資料によれば、”軽トラック運送業において、死亡・重傷事故件数は最近6年で倍増”、また”平成28年から令和5年にかけて、保有台数当たりの事業用貨物軽自動車以外の事業用貨物自動車の死亡・重要事故件数は約2割減少している一方、事業用貨物軽自動車の死亡・重傷事故件数は約4割増加” (引用元:流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律-国土交通省)しており、貨物軽自動車運送事業の安全対策強化は重要な課題となっています。

引用元:貨物軽自動車運送事業における安全規制について-国土交通省
軽貨物の事故が多い要因
多忙な配送スケジュールが主な要因
と考えられます。特に宅配に関しては荷物が多く、時間内に急いで配送しなければならない状況に加え、時間指定もあることで焦りが助長し、安全確認の不足が常態化してしまいがちです。そうなれば、日々の稼働における事故の確率は上がってしまいます。
また、新規参入の多い軽貨物業界には経験の浅いドライバーが多く存在します。交通量の多い道路や道幅の狭い住宅街を、慣れない軽貨物車を運転しながら配送をこなしていくのは想像以上に難易度が高いです。同時に、お客様や荷主とのやり取りによるストレスも運転中の注意力低下を引き起こします。
以上の背景を踏まえ、政府は事故件数の低減を目的
に、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」および「貨物自動車運送事業法」の一部を改正し、安全対策への理解や安全意識の向上などの安全対策強化に関する事項を新たに追加しました。
2025年4月から施行される新制度の概要
安全対策強化に伴い、貨物軽自動車運送事業者にいくつかの事項が義務化されます。当然ながら、一人で事業を行う場合でも自ら安全対策を実施する必要がありますので、内容を十分に理解しておきましょう。
新制度で新たに追加される安全対策項目は以下の6つです。
- 1.貨物軽自動車安全管理者の選任・届出
- 2.貨物軽自動車安全管理者の講習受講
- 3.初任運転者等への指導及び適性診断の受診
- 4.業務の記録
- 5.事故の記録
- 6.国土交通大臣への事故報告
1.貨物軽自動車安全管理者の選任・届出
貨物軽自動車運送事業者は、貨物軽自動車安全管理者を営業所ごとに選任しなければならない
という事項です。
貨物軽自動車安全管理者とは、運行の安全確保のために必要な事項に関する知識を身につけ、安全確保に関する業務を管理する者
を指します。
選任人数は各営業所に一人、個人事業主の場合は自身を選任し届出する必要があります。選任のタイミングは、2025年4月以降に運送事業の経営届出を行う場合は届け出後速やかに、2025年3月末までに経営届出を行った事業者は2027年3月までに選任しなくてはいけません。

尚、貨物軽自動車安全管理者に選任可能な人物には要件があります。
- 貨物軽自動車安全管理者講習を選任の日から遡り2年以内に修了した者
- 貨物軽自動車安全管理者講習を修了し、貨物軽自動車安全管理定期講習を選任の日から遡り2年以内に修了した者
- 貨物自動車運送事業者が一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業を経営している場合に、運行管理者として選任されている者
加えて、上記要件を満たした人物を選任するときには、安全管理者が法令で定められた以下の事項について、運輸支局を通じて国土交通大臣に届出しなければいけません。
- 貨物軽自動車運送事業者の氏名又は名称
- 貨物軽自動車安全管理者の氏名及び生年月日
- 貨物軽自動車安全管理者の選任年月日及び講習修了月日
届出先は管轄の運輸支局等になり、郵送や対面にて届け出す必要があります。
届出書の様式は「国土交通省ホームページ」からご確認ください。

2.貨物軽自動車安全管理者の講習受講
貨物軽自動車安全管理者講習とは、「貨物軽自動車安全管理者」の選任にあたって受講しなくてはならない講習
のことです。
講習には、貨物自動車運送事業法や道路交通法などの法令に関する事項や、運行管理業務に関する事項、事故防止に関する事項が含まれます。
講習は2つに分けられます。
①貨物軽自動車安全管理者講習
は、安全確保に関する業務を行うに当たり必要な事項に関する知識を習得するためのもので、貨物軽自動車安全管理者の選任にあたり受講する必要があります。所要時間は5時間以上です。
②貨物軽自動車安全管理者定期講習
は、安全確保に関する業務を行うに当たり必要な事項に関する最新の知識を習得するためのもので、選任後2年ごとに受講が必要です。所要時間は2時間以上となります。
選任された本人以外の代理受講は認められず、必ず受講の時間を確保しなければならないため、ゆとりをもってスケジュールを組みましょう。
受講場所や受講費用は国土交通省が登録した講習機関によって異なり、eラーニング方式(PCやスマホを使用するオンライン受講)の実施も認められています。
講習機関は「国土交通省ホームページ」からご確認ください。

3.初任運転者等への指導及び適性診断の受診
交通事故の未然防止を図るため、貨物軽自動車運送事業者は初任運転者等の特定の運転者に対しては、特別な指導を実施するとともに、外部の研修機関や専門機関が行う適性診断を受診させなければなりません。
また、運転者に対する指導や適性診断の受診状況等を記載した「貨物軽自動車運転者等台帳」を作成し、営業所に備え置かなければなりません。
特定の運転者とは、「初任運転者」「高齢者」「事故惹起者」を指し、指導と適性診断それぞれの対象者は下図の通りです。

また、対象者ごとに指導の内容が異なります。
初任運転者
- 1.貨物自動車運送事業法その他法令に基づき運転者が遵守すべき事項
- 2.事業用自動車の運行の安全を確保するために必要な運転に関する事項
- 3.安全運転の実技(添乗指導)
1と2で合計5時間以上、3は可能な限り実施する必要があります。
高齢者
適性診断の結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた安全な運転方法等について、運転者自らが考えるよう指導
事故惹起者
- 1.事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令等
- 2.交通事故の事例の分析に基づく再発防止対策
- 3.交通事故に係る運転者の生理的及び心理的要因と対処法
- 4.事故防止のために留意すべき事項
- 5.危険の予測及び回避
- 6.安全運転の実技(添乗指導)
1~5で合計5時間以上、6は可能な限り実施する必要があります。
以上のように、特定の運転者に対する特別な指導及び適性診断の受診は、交通事故を未然に防止できるようにするためにも、必ず実施していきましょう。
特別な指導・適性診断についてより詳しく知りたい方は「国土交通省ホームページ」からご確認ください。
4.業務の記録
言葉の通り、運行業務について記録を義務付ける事項です。具体的には、下記の項目について記録を作成し、1年間保存しなくてはならない
というものです。記録の保存方法は電磁的方法でも構いませんので、業務が終了するタイミングで随時記入をおすすめいたします。
全ての運行で記録が必要な項目
- 運転者の氏名
- 運転者が従事した運行の業務に係る事業用自動車の車両番号(ナンバープレート等)
- 業務の開始及び終了の地点、日時、主な経過地点、業務に従事した距離
- 業務を交替した場合、その地点及び日時
- 休憩または睡眠をした場合、その地点及び日時
集貨地点等(荷主都合により集貨又は配達を行った地点)で30分以上待機した場合
- 集貨地点等
- 集貨地点等への到着日時(荷主から指定された場合)
- 集貨地点等に到着した日時
- 集貨地点等における荷役作業(積込みまたは取卸し)の開始・終了日時
- 集貨地点等で附帯業務(貨物の荷造り・仕分けその他の貨物自動車運送事業に附帯する業務)を行った場合はその開始・終了日時
- 集貨地点等からの出発日時
荷役作業等(荷役作業又は附帯業務)を実施した場合(契約書に明記されている場合は、1時間以上である場合)
- 集貨地点等
- 荷役作業等の開始・終了日時、荷役作業等の内容
- 集貨地点等・日時・内容について荷主の確認を得られたか否か
人身事故、物損事故、国土交通大臣への提出が必要な事故または著しい運行の遅延その他の異常な状態が発生した場合
- その概要及び要因
5.事故の記録
言葉の通り、事故を記録する事項です。事故が発生した場合に、その概要や原因などを記録し、3年間保存しなくてはいけない
というものです。
記録しなくてはならない項目は以下の通りです。
- 運転者の氏名
- 事業用自動車の車両番号
- 事故の発生日時
- 事故の発生場所
- 事故の当事者氏名
- 事故の概要
- 事故の原因
- 再発防止策
6.国土交通大臣への事故報告
事故が発生した際に、所定の報告様式に基づき国土交通大臣に報告するという事項です。他方で、重大な事故については、24時間以内にできるだけ速やかに、電話等で管轄する運輸支局等に速報しなければいけません。
報告する項目は以下の通りです。
- 自動車の使用者の氏名又は名称
- 事故の発生日時
- 事故の発生場所
- 当時の状況
- 当時の処置
- 事故の原因
- 再発防止対策

引き続き実施が必要な安全対策
既にご認識の方も多いかと思いますが、新しく追加された安全対策事項に加え、これまでに続いて実施が必要な事項は以下になります。
- 1.健康状態の把握
- 2.運転者に対する指導及び監督
- 3.点呼
- 4.運転者の勤務時間の遵守
- 5.異常気象時における措置
- 6.過積載の防止
- 7.貨物の適正な積載
1.健康状態の把握
運転者に対し、雇用時や健康診断を受診させ、受診結果を事業者に提出させなければいけません。
2.運転者に対する指導及び監督
運転者に対し、運転技術や法令遵守事項の指導・監督を毎年実施しなければいけません。尚、実施内容は記録した上で、3年間保存する必要があります。
3.点呼
運転者に対し、乗務前後に必要事項(酒気帯びの有無、疾病・疲労・睡眠不足その他の理由により安全運転をすることができないおそれの有無、車両の日常点検等)を確認し、安全確保のための指示をしなければいけません。尚、何かしらの問題が確認された場合は運行してはいけません。
4.運転者の勤務時間の遵守
勤務事案は法令に定められた時間の範囲内に収めなければいけません。
5.異常気象時における措置
台風や積雪などの環境変化に応じて、輸送の安全確保を行う措置を講じなければいけません。
6.過積載の防止
過積載での運行を前提とする運行計画の作成や運送の引き受け、指示をしてはいけません。
7.貨物の適正な積載
貨物重量が前後左右で偏らないように積載、また貨物が落下しないように措置をしなくてはいけません。
安全規制に伴う罰則について
2024年12月、国土交通省物流・自動車局が新たな行政処分の基準案を公表しています。パブリックコメントを2025年1月20日まで受け付け、その後正式に公布する流れになります。
引用元:自動車運送事業者に対する行政処分等の基準の改正について-国土交通省
主な行政処分基準案
内容 | 処分基準 |
---|---|
安全管理者未選任 | 事業停止30日間 |
安全管理者選任の未届出 | 警告(初違反) |
安全管理者選任の虚偽届出 | 20日間車両停止使用停止(初違反) |
安全管理者の講習未受講 | 10日間車両停止使用停止(初違反) |
運転者台帳の未作成 | 20日間車両停止使用停止(初違反) |
まとめ
2025年4月施行の新制度は軽貨物車両の事故増加を受け、安全意識の向上を目的に施行されます。
振り返れば、デジタルデバイスの普及に巨大EC事業者の台頭、そしてコロナ禍での巣ごもり需要増加など、軽貨物事業を取り巻く環境は刻々と変化し続けてきました。
今後もラストワンマイルの配送需要は増加すると予想される中、自身の身を守るためにも、安全な運行に関する知識や技能を身につけ、安全意識の向上に努めていきましょう。
ロジクエスト編集部
株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
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