医薬品物流とは?物流業務における特徴や外部委託するメリットについて解説
2025年02月21日

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医薬品は私たちの健康に欠かせない重要な役割を果たしており、その流通過程には厳格な管理が求められています。医薬品物流では、品質維持や衛生管理、さらにはタイムリーな配送など、精密な対応が不可欠です。
本記事では、医薬品物流の特徴と、外部委託するメリットについて解説します。
この記事の目次
そもそも医薬品物流とは?
医薬品物流とは、医薬品や医療関連製品を取り扱う物流業務のこと
で、メディカル物流とも呼ばれます。医薬品は温度や湿度に敏感であるため、輸送や保管時に厳格な管理が求められています。もし不適切な環境条件で輸送された場合、薬剤の効果が損なわれる可能性があるため、温度や湿度の管理は非常に重要です。
また、医薬品物流には薬機法やGDPガイドラインなど、厳格な法規制の遵守が求められています。
GDPガイドラインとは?
医薬品物流において、GDPガイドラインを理解することは非常に重要です。GDPとは、「Good Distribution Practice」の略で、日本語では「医薬品の適正流通」と訳されます。
医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインは、医薬品の流通における適正な管理基準を定めた指針であり、医薬品の品質と安全性を確保するための枠組みとなっています。加えて、偽造医薬品が規制流通経路への流入するのを防止するため、手法を定めたものでもあります。
厚生労働省が策定した「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」は9つの章から構成されており、各章にて医薬品物流における必要事項がまとめられています。
医薬品における物流ついて
医薬品物流は、大きく「生産物流」「メーカー物流」「卸物流」に分類されます。
ここでは、生産物流~卸物流の領域である、「メーカーから卸への輸送ルート」「卸から医療機関への輸送ルート」について、以下で詳しく解説します。
メーカーから卸業者への輸送ルート
医薬品メーカーが製造した医薬品は物流各社による配送を通じて医薬品卸の保管倉庫・物流センターまで輸送されます。卸業者の保管施設では、医薬品を適切な条件で管理し、医療機関からの注文に備えて在庫として保持します。これらの施設は、薬機法や関連法規に準拠し、品質保持に適した設備やセキュリティ体制を整備する必要があります。
卸業者から医療機関への輸送ルート
卸業者の保管倉庫から病院や薬局などの医療機関への輸送は、発注に応じてピッキング、梱包、配送といった各工程を経て行われます。この過程においても温度や湿度などの輸送条件を厳守する必要があります。さらに、輸送中には医薬品の品質を保つため、管理状況を監視する体制を整備し、安全な配送を確保することが求められています。

医薬品物流のカテゴリー
医薬品物流は「医薬品」に限らず、「医療機器」や「治験薬」も含めた3つのカテゴリーに分類されます。
カテゴリー | 内容 |
---|---|
医薬品 | 病院や薬局などで使用される医薬品を対象にした物流業務 |
医療機器 | 医療機器をはじめ、患者の治療・リハビリの機器も取り扱う物流業務 |
治験薬 | 未承認薬を扱う特殊な物流業務 |
医薬品物流における特長
医薬品物流の管理には、「温度管理」や「トレーサビリティ」、「セキュリティ」など重要な要素がいくつか存在します。ここでは医薬品物流における特徴を解説します。
1. 温度管理
温度管理の重要性
医薬品物流において、温度管理は不可欠な要素の一つです。特に、冷蔵や冷凍保存が必要な医薬品は、定められた温度範囲内での保管・輸送が求められます。適切な温度管理がなされないと、薬効が失われたり、医薬品が効果を発揮できなくなったりする恐れがあります。
温度帯と管理基準
医薬品には保管時の温度帯に関して厳密な規定があり、輸送時は冷蔵・冷凍設備や温度管理車両が使用されます。日本薬局方では、以下5つの温度帯を定めています。
温度帯名称 | 温度区分 |
---|---|
標準温度 | 20℃ |
常温 | 15~25℃ |
室温 | 1~30℃ |
微温 | 30~40℃ |
冷所 | 1~15℃ |
温度マッピングとモニタリング
温度管理において重要な要素の一つが「温度マッピング」です。これは、倉庫や輸送車両の保管スペース内で、どの位置で温度測定を行うべきかを決定するプロセスです。温度マッピングにより、最も温度が高い場所や低い場所を特定し、その後、モニタリングが必要なポイントを設計します。
この測定は、製品の品質を維持するために不可欠であり、医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインにて「保管場所の使用前に、適切な条件下で温度マッピングを実施すること」「温度モニタリング機器(例えばデータロガー)は、に従って適切な場所に設置すること」と明記されています。
また、温度モニタリングには、リアルタイムでデータを取得し、異常時にアラートを発するシステムが導入されるケースが多く存在します。これにより、問題発生時の迅速な対応が可能になり、医薬品の品質を確保することが可能です。
2. トレーサビリティ
トレーサビリティとは?
トレーサビリティとは、製品がどこで製造され、どのような流通経路をたどり、最終的に消費者に届けられたのかを追跡できる仕組みを指します。「Trace(追跡)」と「Ability(能力)」を組み合わせた造語で、日本語では「追跡可能性」と訳されます。
医薬品のように人体に影響を与える製品では、安全性と品質管理の観点から、トレーサビリティは不可欠です。流通経路が明確になることで、医薬品の信頼性向上にもつながります。
偽造医薬品のリスクとトレーサビリティの役割
近年、医薬品の輸出入が増加傾向にあり、トレーサビリティが重要視される理由の1つです。世界的に、医薬品の偽造問題は深刻であり、特に流通管理が不十分な地域では、正規品と見分けがつかない偽物が出回ることがあります。そのため、流通経路を可視化し、製造元から消費者に至るまでの経路を明確にすることが求められています。
トレーサビリティを導入することで、各段階で適切な管理を行い、正規品であることを証明できる仕組みを整え、偽造医薬品の流通を防ぎ、安全性を確保することができます。
トレーサビリティのシステムと法規制への対応
トレーサビリティを実現するには、製品ごとの識別情報を管理し、各流通拠点での移動履歴を記録するシステムの導入が不可欠です。バーコードやQRコード、RFIDタグなどを活用し、リアルタイムで製品の流通状況を把握する技術が用いられています。また、医薬品の安全性確保を目的とした規制が強化されており、欧米では偽造防止の一環としてトレーサビリティの導入が義務化されています。
3. セキュリティ
医薬品物流におけるセキュリティ対策の重要性
医薬品物流では、薬品の盗難や偽造のリスクが常に存在するため、厳格なセキュリティ対策が求められています。特に高価な医薬品や麻薬性鎮痛剤など、違法な転売や悪用のリスクがある製品は、通常の物流よりも高度な管理が必要です。セキュリティを強化することで、製品の安全性を確保し、適正な流通を維持することができます。
保管・輸送時のセキュリティ対策
医薬品が不正に流通するのを防ぐためには、保管や輸送の際に厳格なセキュリティ管理が必要です。倉庫内でのID認証管理やアクセス制限を導入し、限られた人員のみがアクセスできるようにすることも1つです。
輸送中のセキュリティ対策としては、車両の追跡システムを導入し、輸送経路を常に監視することも有効です。これにより、配送過程で発生するリスクに迅速に対応でき、問題が発生した場合にも素早く対応が可能となります。
法的規制とセキュリティ対策の適合
医薬品のセキュリティ対策には、各国の法規制への適応も求められます。また、医薬品の適正流通ガイドライン(GDP)では、保管施設のアクセス権限を明確にし、許可された従業員のみが施設に立ち入ることが求められています。監視カメラの設置やセキュリティ体制の強化が、偽造防止や不正流通防止において重要な役割を果たします。
医薬品物流をアウトソーシングするメリット

医薬品物流は、高度な品質管理と規制対応が求められる業務であり、自社で担うには負担がかかります。そこで、物流業務を外部委託することにより多くのメリットを得ることができます。以下では、代表的な3つのメリットを紹介します。
1. 業務負担の軽減と本業への集中
外部委託先の業者によっては、単なる輸送業務だけでなく、温度管理や在庫管理、さらには梱包・ラベル貼付などの細かな作業にも対応できるケースがあります。こうした業務をアウトソーシングすることで、自社の管理負担を軽減し、製品開発や営業戦略など本業に集中することができます。
2. コスト管理と運用負担の削減
自社で医薬品物流を担う場合、設備投資や専門スタッフの確保、温度管理システムの運用など、さまざまな固定費が発生します。一方、アウトソーシングすることで、これらのコストを変動費として管理でき、需要の増減に応じた柔軟な運用が可能になります。また、物流業者は効率的なルート設計や輸送手法を活用しているため、全体の運用コスト削減が期待できます。
3. 物量変動に応じた柔軟な対応
物流量の増減は、企業にとって大きな課題です。自社で対応する場合、人員確保や倉庫スペースの調整に時間とコストがかかり、急な需要の変化には柔軟に対応しにくいのが現実です。物流業務をアウトソーシングすることで、繁忙期には追加の配送便や作業スタッフを確保し、閑散期には適切な規模に調整できます。これにより、無駄なコストを抑えつつ、安定した物流体制を維持し、効率的な運営が実現できます。
まとめ
医薬品物流は、医薬品や医療関連製品を取り扱う物流業務であり、輸送や保管時には厳格な管理が求められます。特に、厚生労働省が定める医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインへの適合が非常に重要です。物流業務をアウトソーシングすることで、業務負荷の軽減やコスト管理、物量変動への柔軟な対応など、さまざまなメリットを享受できるため、選択肢の一つとしてみてはいかがでしょうか。
ロジクエスト編集部
株式会社ロジクエストにて、国内外の輸送案件に従事する専門家メンバーが作成。
物流に関わる基礎知識やトレンドについて、分かりやすく解説しています。